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JM Room

ジュエル・ミュージック対談シリーズ その1

■ゲスト
菅原 眸 氏 日本ファゴット(バスーン)協会会長
菅原早苗 氏 東邦音楽大学名誉教授 御夫妻
■聞き手
高橋 淳 株式会社ジュエル・ミュージック 代表取締役

菅原 眸 氏,菅原早苗 氏,高橋 淳

ひとりでも多くの方々に、楽器演奏を学び自ら音を奏でることの楽しさを知っていただきたい、という理念のもとに設立されたジュエル・ミュージック。その趣旨にご賛同いただく、音楽業界をはじめとする各界の著名人と代表の高橋淳が対談するシリーズ第1回目のゲストは、ジュエル・ミュージックのアドバイザーとして、設立当初よりご指導ご協力をいただいております菅原眸・早苗ご夫妻をお迎えいたしました。

高橋:本日は両先生ともご多忙のなか、このような場を設けていただき感謝申し上げます。早速ですが眸先生、先日の先生の東京音楽大学の退官祝いのパーティーにお招きいただきありがとうございました。大勢の方が出席され、盛大な中に先生のきさくなお人柄もしのばれるパーティーで、私も大いに楽しませていただきました。

菅原眸:ありがとうございます。学内外からたくさんの方々にご出席いただき、これも全て、音楽が取り持つ人の縁なんだなと、あらためて感慨深いものがありました。

高橋:さて、早苗先生は私が学んでいるフルートの先生の師匠にあたられるわけで、私は勝手に孫弟子を名乗らせていただいております(笑)。現在東邦音楽大学の名誉教授として、日々若手音楽家を育てる立場でいらっしゃいますが、音楽の魅力っていったいどんなところにあるのでしょうか?

菅原早苗:これまで、大学を主に、たくさんの若い音楽家の指導と育成に努めてきましたが、殺伐としたニュースが毎日のように聞かれる昨今だからこそ特に感じることなのですが、音楽には、私たちが日々の生活の中でややもすると失いがちになる自分自身の中の大切なもの、いわば「私」の価値を、時に取り戻してくれる力があるのではないかということです。

高橋:なるほど。実は私自身も、前職の某大手証券会社勤務のサラリーマン時代、時代もバブル期の前後だったということもあるのですが、大変な激務とストレスの日々をおくっていた時期がありました。そんな時に出会ったのがフルートというたった1本の楽器だったんです。学生時代吹奏楽部に入っていましたので、楽器や音楽に関して多少なりとも心得なり経験はあったのですが、証券会社就職後は、正直趣味どころじゃないという感じでした。本当にフルートのおかげで救われたと今でも思ってます。この会社を設立したのも、幅広い年令層のかたがたに、音楽の持つ素晴らしさを伝えていきたいと思ったからなんです。

菅原眸:全く同感ですね。私はNHK交響楽団に入団以降、ファゴット奏者としてのキャリアを積み重ねてきました。ファゴットはフルートやバイオリンなどと違って、一般の方々には少々なじみは薄いですが、他にはない表現や音色を奏でることができる素晴らしい楽器なんです。そこで、私が中心となって日本中のプロアマを問わずファゴット奏者に呼びかけ日本ファゴット(バスーン)協会を設立したのが 1993年です。以後設立10年以上を経て、おかげさまで個人会員、法人会員とも順調に増え続け、現在も私が会長職を勤めさせていただいてます。夢は 1,000人によるファゴット組曲の演奏です。これを読んだみなさまには、ファゴットが活躍するいろいろなオーケストラの曲を是非聞いていただきたいですね。

高橋:ところで、おふたりの先生にも聞いていただきたいデータがあります。それは総務省が5 年ごとに発表する「平成13年社会生活基本調査」というデータです。全国で洋楽器の演奏をする人がおよそ1,280万人いるのですが、その約53%の 680万人の人は年間で1日から19日しか演奏をしてないらしいのです。そして、この数字には授業や研修としておこなったものは含まれてません。一方で、完全な趣味の領域と言える年間200日以上も演奏する人も全体の約12%に相当する165万人しかいないという結果がでています。これらは、国が正式に発表している数字ですから間違いのない統計資料です。そこで、私は考えました。楽器の演奏を趣味と呼べるレベルまで上達するのは、口で言うほど簡単なことではありませんが、頑張って一定以上のレベルまで上達することができれば、一生涯の趣味として、変な言い方ですが楽器ひとつあれば、旅行やゴルフほどにはお金もかからず、うんと高齢になっても続けていける楽しみを手に入れることができるに違いない。そして、それを実現するための最も良い方法として、良き指導者・先生との出会いが重要であると考えたわけです。

菅原夫妻:おっしゃる通りです。

高橋:であれば、より多くの方々がそれぞれの生活環境や諸条件の中で、最も良い先生にめぐりあえる仕組み作りと、楽器を学べる方法は何かと考えた上で始めたのが、楽器の先生を、教わる生徒さんのご自宅に派遣して安心して楽しめるマンツーマンレッスンを行うというシステムなんです。

菅原早苗:確かに楽器の上達を目指す上で、指導者の存在は極めて重要です。良き指導者との出会いは上達のための近道と言ってもいいすぎではないと思います。さきの、年間で200日以上演奏されるかたは、先生との恵まれた出会いがあったのでしょうね。

高橋:はい。また、さきほどのデータの続きなのですが、全国に50才以上で楽器の演奏をする人が220万人もいることがあわせてわかりました。

菅原眸:ええ、私も全国のアマチュア演奏家の指導やコンクールの審査員をすることが本当に多いのですが、中高年の楽器愛好者は確実に増えていると思います。高橋社長のように、若い頃クラブ活動等で演奏経験があり、途中仕事が忙しくなって中断していたけれどまた最近始めましたという人が案外多いんじゃないかな。いずれにせよ老いも若きも幅広い世代の方々に最も楽器を習いやすい環境や手段を提供することは、絶対に必要で、それは日本の音楽文化の裾野を広げる大切な役割を同時に果たすことになります。我々夫婦が、ジュエル・ミュージックの趣旨に賛同するのはその部分なんですよ。

高橋:ありがとうございます。従来楽器というのはこちらから先生のところへあくまでも習いにいくものであったわけです。先生が家に来てくれることで、習いたくても習えなかった方々、例えば高齢者の方、子供がまだ小さいので外出しにくいとか、心身にハンデキャップをお持ちのかたがたにも、楽器修得の機会をご提供できると考えています。

菅原早苗:とにかく今の中高年の方は元気一杯ですよ。

高橋:そういえば早苗先生は確か昨年、銀座で油絵と彫金の個展も開かれましたよね。

菅原眸:何せ、趣味の数が両手じゃ足りないくらいの多趣味人間ですから。

高橋:それは羨ましい限りです。

菅原早苗:私がいつも考えていることなのですが、これからの超高齢化社会に向けて、“生涯現役”ともいうべきアクティブシニアの方々が、ひとつでもいいからこれはという趣味をみつけ取り組んでいくことで、人生をより生き生きとしたものにすることができますし、それは同時に個々の幸福感の発見にも繋がるはずです。

菅原眸:その趣味が楽器や音楽であるのであれば、長年その世界で育ちまた私たち自身も育てられてきたわけですから、その恩返しという意味においても、ジュエル・ミュージック及び音楽界の発展のために微力ではありますが、積極的に協力させていただきます。

高橋:心強いお言葉、本当にありがとうございます。最後になりましたが、菅原先生ご夫妻の益々のご健勝をお祈り申し上げて、本日の対談は締めくくらせていただきます。今後ともジュエル・ミュージックをよろしくご指導ください。

プロフィール

菅原 眸(すがわらひとみ)
東京藝術大学卒業後、NHK交響楽団に入団。N饗ではコントラファゴットの名手として、また「ひげ」の名物ファゴット奏者として人気を博す。退団後愛知県立芸術大学教授、東京音楽大学講師等を経て、現在は日本管打・吹奏楽学会理事、日本ファゴット(バスーン)協会会長。

菅原早苗(すがわらさなえ)
東京藝術大学卒業後、都立芸術高校講師、東邦音楽大学講師、管弦打主任教授、学生部長等の要職を経て現在東邦音楽大学名誉教授、日本フルート協会常任理事。自身が主宰する「ベルソナ」を日本最大級のフルートオーケストラに成長させ、国内はもとより海外での演奏活動も含め精力的に活躍中。